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秋田木材通信 2000年1月11日号 ■

 今はまだ寒の最中の秋田ではあるが、この冬はいつもよりもかなり雪が少ない。このままということはないだろうが、春になると、里山の木の根元から輪状に雪が解け出し、やがてあえかに芽生える野草の花が一つ、また一つと咲き始め、季節はあっという間に草原や里山を覆いながら春へと上りつめていく。
 夏に向かうほど、山野を彩る花の色は、濃く鮮かなものへと移り変わっていくが、その直前のタニウツギが花を誇る少し前の、あの高貴な紫色の藤(ふじ)の花の存在も、決して侮ることはできない。古代から貴族に好まれ、賞揚された花の一つである。清少納言の「枕草子」でも「木の花は…」の中では、梅、桜に次いで、藤の花、しなひ(花房)長く色よく咲きたる、いとめでたし、と取り上げられている。
 さらに枕草子では「めでたきもの…」の中でも、唐綿、飾り太刀、作り仏の木絵などとともに、「色合いよく、花房長く咲きたる藤の松にかかりたる」さまを挙げている。古来、なぜか松にかかった藤の花はとくに優雅なものとされてきた。両者がともに、めでたい木と花であったからであろうか。
 しかし、秋田の里山で、若杉の枝にしないかかるように咲く春の藤の花も、深い緑に際立つ紫となって、いかにも風情のある一幅の眺めとなる。つまり、杉と藤の取り合わせも、なかなかに捨てがたい。
 ──とまァ、今回、海青社から発行された『雅びの木──古典に探る』は、古代から鎌倉時代までの古典を中心として、その中に記された木に関する記述、歌、エピソードなどを集め、主だった日本の木がどのように関わってきたかを拾い上げ、そして日本人が木に寄せた古代から現代に至る思いが語られている。
 著者は(財)日本木材総合情報センター大阪木のなんでも相談室長の佐道健氏。専門は木材工学、とくに木材の物性だが、今回の著作出版となったキッカケは、それまで気になっていた「古代にはツキ(槻)と呼ばれていた木が、いつからケヤキ(欅)と呼ばれるようになったのか」を調べ始めてからのことだという。
 渉猟した古典は、魏志倭人伝に始まり、古事記、風土記、日本書記などの記紀から万葉集、枕草子、源氏物語、伊勢物語、徒然草など四十を超える。項目も「伝説の木・祈りの木」「不思議の木」「都を飾る木」「匠の技」など序章を含めて十章に分類されており、興味深い内容となっている。

詳しくは 雅びの木のページへ