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■ 秋田木材通信 第3498号 ■
「木材の表情ややさしさ、よさ、すごさをできるだけ多くの人々に見ていただき、知っていただきたくて」の思いでものした一冊。
縁結びの神様として知られ、全国から年間200万人以上もの観光客が訪れるという島根県大社町の出雲大社。その出雲大社の境内からつい最近、杉の巨木三本を束ねて一本とした直径3メートルの巨大な柱(正確にはその根の部分)が出土。このことによって、かつて出雲大社の本殿の高さは十六丈(約48メートル)あったという伝承がほぼ間違いないものとして裏付けられた。
高さ48メートルと言えば、現在のOA対応型のビルでも14階建てのものに相当する。出雲大社の創建時期は今なお確定されていないが、日本書記では斉明5(659)年の記事が初出であることから、これが間違いないものとすれば、今から1300年以上も前に建てられたわが国でも最古の、しかも仏寺以外では最も高層の木造建築物ということになる。
今回出土したのは、高層の本殿を支えるために使われた棟持ち柱の跡と見られているが、杉の丸太3本を束ねる構造やその径が3メートルという太さも、これまで類例がない。まさに日本の木造建築史の見直しを迫る発見だと、関係者が興奮を抑え切れずにいるのも理解できるというもの。
タイミングのよさを見計らってのことでもあるまいが、実はやはりつい最近、木材や木造建築、木材化学など木材関連書籍や冊子の発行を専門としている海青社という出版社から『国宝建築探訪』という新刊が送られてきたばかりであったのである。
著者の中野達夫氏は、現在は信州大学教授で農学博士。というよりも農林水産省林業試験場(現森林総合研究所)木材利用部長として「木材工業ハンドブック」や「木材活用事典」などの木材利用の拡大や普及・啓蒙につながる著作の刊行に携った研究者の一人と紹介したほうが通りがいいかもしれない。
その木材学を専門とする研究者が「長年の研究生活を通じて木材をこよなく愛することになった」挙句、長年月の風雨にさらされ、時として表面が風化し、虫や菌に冒されながらも今日に及んでいる国宝建築物に使われている「木材の表情ややさしさ、よさ、すごさをできるだけ多くの人々に見ていただき、知っていただきたくて」の思いでものした一冊である。
日本の国宝建築はすべて国宝である。現在、国宝として指定されているのは125カ所 ・209件。北は岩手県の中尊寺金色堂から南は長崎県の大浦天主堂や崇福寺に至るまでかなり広い範囲に分布している。著者は仕事や研究の合間を縫って、これらの国宝をすべて訪ね歩き、非公開や撮影禁止のものを除いてその都度撮影した写真420枚にコメントを寄せ、国宝建築の魅力を木の専門家の視点から紹介している。
冒頭に取り上げた出雲大社本殿ももちろん国宝に指定されている建築物。そのページには「古代の出雲大社は東大寺金堂(奈良)の高さとほぼ等しく48メートルあったといわれている」とその伝承を説明に添えながら、数年前に木造ハイブリッド工法で建てられた「出雲ドーム」の高さが48メートルであることに言及し「ドームの高さは古代出雲神社の高さを意識して設計された」ことを明らかにしている。
現存する国宝建築物の探訪記である一方、本書の導入部となっている「木材利用の歴史について考える」と題された一文は、この先も木、木材に関連する研究や生業の糧とする者にとって示唆と教唆に富むものが多い。
詳しくは
国宝建築探訪のページへ
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