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日本教育新聞 1月14日号 ■

古代人の木への思いを知る

「古代に槻(ツキ)と呼ばれていた木がいつごろ、ケヤキと呼ぶようになったのか」─こんな小さな疑問から調べ始めた著者は、次第に古代の人の樹や木に対する理解や思いに関心が深まっていく。本書は古典の中に現れる主だった木を選んで、古典の記述とともに、その木の特徴や古代人の木へのかかわり方を記したものだ。
 著者は京都大学名誉教授で農学博士。専門は木材工学で、いわば「木の博士」だ。本書では「木の神と伝説の木」「祭りの木・桂」「しるしの杉」「邪気を払う桃」「沙羅双樹の花の色」など、興味深いエピソードがそれについて記述された古典とともに紹介されている。
 「木は桂。五葉。柳。橘」と、かの『枕の草子』で清少納言も平安京を代表する木として桂を最初に挙げているが、祭りといえば桂の木が冠によく使われたことに由来するという。「かえで」ももとは「かえるで」とも呼ばれ、葉の形が蛙の手に似ているところから付けられた。『和名抄』では鶏冠に似ていることから鶏冠木の字が当てられた。
 このほか、柏や椿、桜、梅、松、桐、楠、藤など、なじみの深い樹木がたくさん登場し、古典を通してこれらの木を古代人がいかに愛していたかが分かる。
 ところで、日本人の姓にもこうした木の名前からとったものが少なくない。古典嫌いの生徒でも、自分の氏名などに関連する木がどう描かれているかを切り口にして、古典への親しみを抱かせる契機になるのではないか。新設校舎に木の温もりを活かした設計が増えているが、日本人と木とのつながりを改めて考えさせてくれるのも本書の魅力だ。
 すべての木を網羅しているわけではないが、日本人と自然とのかかわりを古典から探る際の視点の一つを提供してくれる本だ。

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